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東京地方裁判所 昭和51年(行ウ)32号 判決 1980年7月15日

東京都足立区千住仲町一〇六

原告

土田光雄

右訴訟代理人弁護士

青柳孝夫

右訴訟代理人弁護士

能勢英樹

東京都足立区千住旭町四の二一

被告

足立税務署長

早川豊

右指定代理人

布村重成

磯部喜久男

鴨下英主

渡部康

吉岡光憲

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた判決

一  原告

1  被告が原告に対し昭和四八年三月一三日付けでなした原告の昭和四四年分、昭和四五年分及び昭和四六年分の各所得税の更正及び過少申告加算税賦課決定(ただし、昭和四四年分及び昭和四五年分は異議決定及び審査裁決により一部取り消され又は変更された後のもの、昭和四六年分は審査裁決により一部取り消された後のもので更正のみ)を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  原告は、肩書地において機械部品の加工業を営む白色申告者であるが、その昭和四四年分、昭和四五年分及び昭和四六年分の各所得税経過は、別表一ないし三のとおりである。

2  被告が昭和四八年三月三一日付けでした右各所得税の更正(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税賦課決定の処分(ただし、昭和四四年分及び昭和四五年分は異議決定及び審査裁決により一部取り消され又は変更された後のもの、昭和四六年分は審査裁決により一部取り消された後のもので更正のみ。以下「本件処分」という。)には、次の違法がある。

(一) 本件処分は、違法な税務調査に基づくものである。すなわち、我が国は申告納税制度を採用しているから、税務署長が所得税について調査を行うのは例外的な場合に限られ、しかもその必要性が客観的合理的に是認される場合にのみ許され、調査に際しては、調査事項を特定して被調査者の承諾を求め、要求があれば調査の理由を開示すべきである。また、被調査者にとっては調査を受けること自体がその営業活動や取引の信用等の面での障害となるのであるから、臨店調査や取引先調査に当たっては、事前に連絡したり、被調査者の疑問に答えるなど、納得づくの調査がなされるべきである。被告は、昭和四七年七月二〇日、何の事前連絡もなく係官二名を原告宅へ派遣し、右係官は、原告が急ぎの仕事中であるから後日にしてほしいと申し出たにもかかわらず、原告にまつわりついて執ように質問し、調査に応じるよう迫った。被告所部係官は、その後も同年八月二二日、同年九月五日(この日は事前連絡なし。)、同年一〇月六日と原告宅を訪れ、更に原告の同意なく原告の取引先、取引銀行等の反面調査をなしたが、この間一度も調査の理由を開示せず、頭ごなしに調査に応じよと強要し、全く権力的、脅迫的な態度に終始した。このように、被告の調査には、原告に対する事前通知を欠き、調査の具体的理由ないし必要性を開示せず、原告の同意なく反面調査を行った違法があり、かかる違法な調査に基づく本件処分は取り消されるべきである。

(二) 本件更正は被告の推計に基づくものであるが、本件においては推計の必要性を欠いている。すなわち、被告は、原告が(一)で述べたような違法な調査に応じなかったことを理由に推計課税を行ったものであるから、推計の必要性の要件を欠き、本件処分は取り消されるべきである。

(三) 被告の所得推計は、合理性を欠いている。すなわち、被告は、昭和四四年分については五名、昭和四五年分については七名、昭和四六年分については九名の機械部品加工業者を選び出し、それぞれの収入金額の中で占める収入原価、一般経費、外注費・人件費(外注費と人件費との合計。以下同じ。)の各比率を算出し、その平均率を用いて原告の収入原価、一般経費及び外注費・人件費を算出しているが、右機械部品加工業者の住所氏名を開示せず、その事業所の広さ、設備、保有機械の種類台数、雇人数、外注依存度、加工部品の種類等についても明示していない。また、右機械部品加工業者の収入原価、一般経費、外注費・人件費の比率には、業者によって大きな較差が見られ、その業態、規模に大きな相違のあることが認められる。このように、原告との業態、規模の類似性が明らかでなく、あるいは類似性の認められない標本による推計は合理性を欠くものといわざるを得ない。特に、外注費、人件費というような特別経費を同業者の平均比率によって推計するのはそもそも誤りであるうえに、被告は外注費と人件費を一括し、その収入金額に対する比率を算出し、原告の収入金額に右比率を乗じて得た額から、青色事業専従者二人分の平均給与額を減じた額をもって、原告の外注費・人件費としているが、このような計算方法を採用すべき合理的理由はない。したがって、被告の所得推計は合理性を欠き違法であるから、これをもって本件処分の所得認定を正当化することはできず、本件処分は取消しを免れない。

(四) また、原告は、異議申立ての段階から、原告の外注費及び雇人費についての資料を被告に提出しており、被告は、これに基づき外注費及び人件費の実額を計算できるにもかかわらず、右資料を無視して推計を行ったものであるから、被告の推計はこの点においても違法といわざるを得ない。

原告宅は、戦前からの長屋街の奥にあり、公道から一〇〇メートル離れ、公道に至る私道は幅一・八ないし二・〇メートル程度しかなく、小型自動車さえ入れず、公道までの資材の運搬は人力又はリヤカーによるほかない。また、原告の機械設備としては旋盤二台と卓上ボール盤一台のみで、注文加工を自家のみでは処理できず、外注に多くを頼らなければならなかった。そのため、原告の外注費及び人件費は他の同業者に比して多額とならざるを得なかったのであり、かかる実情を無視して同業者の平均値を適用することは誤りである。

原告が支出した外注費及び人件費の実額は、次のとおり、被告推計額よりはるかに高額になっている。すなわち、原告の外注費は、別表一〇の外注先に対する支払額の合計で、昭和四四年分が三、五五一、二三八円、昭和四五年分が二、一九七、六〇六円、昭和四六年分が八六五、二三三円である。また、原告の人件費は、昭和四四年分が一、四七三、五二〇円(岡村剛への支給分一、二八九、三四八円及び椎名恵への支給分一八四、一七二円の合計)、昭和四五年分が二、〇〇二、三一二円(岡村剛への支給分一、二八二、三一二円及び竹田耕一への支給分七二〇、〇〇〇円の合計)、昭和四六年分が三六〇、〇〇〇円(竹田耕一への支給分)である。

(五) 原告は事業の用などに供していた自動車を昭和四六年に四五八、〇〇〇円で譲渡したが、右自動車の未償却額は七七〇、一四九円であるから、その差額三一二、一四九円は短期総合譲渡所得の損失金として、同年分の事業所得金額と損益通算すべきであり、これを無視した被告の所得計算は違法である。

二  原告の請求原因に対する被告の認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  請求原因2の主張は争う。なお、同(五)の自動車は、原告が子供のために購入したものであって、主として子供が遊びのために使用していたものであるから、生活の用に供する動産ではあるが生活に通常必要なものとはいえないから、これに係る譲渡損は、所得税法六九条二項の規定により生じなかったものとみなされ、損益通算の措置をとることはできない。

三  被告の主張

1  調査の適法性及び推計の必要性

(一) 原告の本件各係争年分の所得税確定申告書には、収入金額及び必要経費の記載がなく、所得金額のみが記載され、その所得金額も同業者の申告額に比して低く、また、原告は昭和四四年八月一五日茨城県猿島郡岩井町所在の土地を売買により取得しているところ、その取得資金の出所も明らかでないため、被告は右所得税について調査の必要を認め、被告所部係官に対し右調査を命じた。

(二) 被告所部係官は、昭和四七年七月二〇日から同年一〇月六日までの間に四回原告宅を訪問し、原告に対し、本件各係争年分の所得税の調査を行いたい旨を述べ、原告の事業概況、取引先、取引銀行等について質問したが、原告は、「帳簿の記帳はしていないが、原始記録は保存している。」と述べながら、原始記録を提示するようにとの被告所部係官の要請に応じようとせず、「なぜ原告が調査の対象になったのか、原告の確定申告書のどこが間違っているかを具体的に説明しなければ、調査に応じられない。」等と述べるのみで、被告所部係官の質問に答えなかった。そして、被告所部係官は、

「原告の確定申告した所得金額が適正なものであるか否かを確認するため調査を行うものである。原告の申告所得金額は税務資料からみても、また、原告と同種同規模の他の業者の所得金額と比較しても低額と思われるので、調査の対象になったものである。」と説明したが、原告は、「調査理由がはっきり納得できない。資料があるなら開示せよ。」等と申し立てるのみで、調査に応じる気配を全く示さなかった。

そこで、被告所部係官は、原告の取引先等の調査を行ったうえ、昭和四八年三月一日及び同月一二日の二回にわたり原告宅を訪問し、原告に対し、右調査結果に基づく収入金額とその収入金額から推計した所得金額を伝えたが、原告は、調査結果についての話合いに応じようとしなかった。

右のとおり、原告は、被告所部係官の再三にわたる臨店調査にもかかわらず、所得金額の計算の基となる帳簿書類を一切提示せず、係官の質問にも答えず、原告の取引の実態を明らかにしなかった。そこで、被告は、これ以上原告に対する調査を行っても実額による所得金額を把握することはできないと判断し、原告の取引先等の調査によって判明した原告の本件各係争年分の収入金額を基礎として、原告の所得金額を推計し、当該所得金額に基づいて本件処分を行った。

(三) また、原告は本件処分を不服として異議申立てをしたので、被告所部係官がその審理を行うため昭和四八年五月一九日から同年七月一七日までの間に四回原告宅を訪問し、原告に対し異議申立てに係る審理のため赴いた旨を伝え、原告の所得金額の計算過程を明らかにし、帳簿書類を提示するよう求めたが、原告は、「本件は、具体的調査理由を開示しないまま反面調査を実施して更正処分を行ったという違法があるから取り消せ。所得金額の正否などこの際問題ではない。」などと申し立て、被告所部係官の要請に応じようとしなかった。

そこで、被告は、これ以上原告に面接しても原告の所得金額を実額によって計算することは不可能であると判断し、主として原処分の内容について検討した結果に基づき、異議決定を行った。

(四) 所得税法二三四条は、所得税に関する調査について必要があるときは税務職員において質問検査をなし得る旨定めているが、質問検査権の行使に当たって、実施の日時場所を事前に通知したり、調査の理由を開示しなければならない旨の規定は存しないから、実施の日時場所の事前通知、調査の理由ないし必要性の個別的、具体的告知のごときは質問検査権行使の手続要件ではないと解されるのであって、この点に関する原告の主張は失当であり、その他右に述べた被告の調査には権限の濫用にわたるところもないから適法な調査というべきである。そして、原告は右調査に協力せず、帳簿書類の提示もしなかったのであるから、被告としては原告の所得金額を把握できず、これを推計せざるを得なかったもので、推計の必要性に欠けるところはない。

2  推計の合理性

(一) 昭和四四年、昭和四五年及び昭和四六年の各年において被告の管轄区域内において機械部品加工業を営んでいた個人事業者のうち、青色申告書を提出し、その収入金額(売上金額。以下同じ。)が昭和四四年分及び昭和四五年分については五、〇〇〇、〇〇〇円から二〇、〇〇〇、〇〇〇円までのもの、昭和四六年分については二、〇〇〇、〇〇〇円から九、〇〇〇、〇〇〇円までのもので、収入原価(売上原価。以下同じ。)、外注費及び人件費(青色事業専従者給与を含む。)のあるもの(事業を改廃したり兼業している者等、特殊事情を有する者を除く。)について、その収入金額に対する収入原価、一般経費及び外注費・人件費の平均比率を調査したところ、別表七ないし九記載のとおり、昭和四四年分は収入原価率が一七・七五%(パーセント。以下同じ。)、一般経費率が二〇・二四%、外注費・人件費率が三五・二九%、昭和四五年分は収入原価率が一五・九九%、一般経費率が一九・三八%、外注費・人件費率が四三・五〇%、昭和四六年分は収入原価率が一〇・六四%、一般経費率が二五・一二%、外注費・人件費率が三八・五一%となり、同じく青色事業専従者の一人当たり平均年間給与額は、昭和四四年分が三三七、六六八円、昭和四五年分が四八二、四三六円、昭和四六年分が四九六、八三六円となった。

被告は、前記反面調査により判明した原告の収入金額に、右収入原価率を乗じて原告の収入原価を推計し、同じく一般経費率を乗じて原告の一般経費を推計し、また、外注費・人件費については、原告の収入金額に右外注費・人件費率を乗じて得た額から、右青色事業専従者一人当たり年間平均給与額に二(原告の事業専従者である原告の妻及び長男に対応する数)を乗じて得た額を減ずる方法により推計した。なお、原告の事業専従者である原告の長男は事業専従者控除の対象とし、同じく原告の妻は事業専従者控除よりも有利な配偶者控除の対象とした。

(二) 原告は、同じ機械部品加工業を営む同業者といえども、営業条件が種々異なり、現に被告の用いた同業者の一般経費等の率には大きな偏差が認められ、このような標本による推計は合理性を欠くと主張するが、同業者間に通常存在する程度の営業条件の差異、すなわち同業者の個別性は、当該平均値の中に吸収、平均化されるものであるから、抽出された同業者間及びこれと原告との間の個別的、具体的諸条件、すなわち事業所の立地条件、広さ、設備等が必ずしも一致しなければならないものではない。被告が本件において抽出した同業者は、地域、業種、業態、事業規模において原告のそれと類似性を有するところの、被告管轄区域内の機械部品加工業者であって、収入原価、外注費及び人件費を含んだ収入金額が原告のそれのほぼ半分から二倍に当たるもので、本件各係争年中に事業を改廃したり、兼業している者等特殊事情を有する者を除いたものであるから、右同業者の抽出基準は合理的であり、また、その抽出に当たっては、右基準に該当する者全員を抽出したのであって、被告の恣意が介在する余地は存しない。したがって、その平均値による推計には合理性があるものといわなければならない。

また、原告は、右同業者の収入原価率等には著しい偏差が存すると非難するが、所得金額は、収入金額から必要経費を控除した金額であるところ、被告が抽出した右各同業者の必要経費の収入金額に対する比率には偏差が少なく、その平均率を用いて算出した必要経費の額は一応の普偏性を有するものということができる。被告は、本訴において、必要経費を構成する個別的科目ごとに当該平均率を用いて金額を算出しているが、このようにして算出された個別科目ごとの金額を合計すれば、右必要経費の額になるのであり、この点においても被告の推計は合理性を欠くものではない。

更に、原告は、外注費及び人件費の計算方法が不合理であるというが、右計算方法は、本件同業者率の算定基礎となった標本がすべて青色申告者であり、原告が白色申告者であることを考慮したものであって、何ら不合理なものではない。

3  昭和四四年分事業所得金額の算定根拠

(一) 原告の昭和四四年分事業所得金額は、次の表のとおり、収入金額から収入原価、一般経費、特別経費及び事業専従者控除を控除した三、二七四、五六九円と算定される。

<省略>

(二) 右の収入金額は、被告が前記反面調査により把握し得た原告の得意先に対する売上金の合計であり、その内訳は、別表四の被告主張欄記載のとおりである。

(三) 右の収入原価は、原告の右収入金額に前記収入原価率一七・七五%を乗じて算出した額である。

(四) 右の一般経費は、原告の右収入金額に前記一般経費率二〇・二四%を乗じて算出した額である。

(五) 右の特別経費は、外注費・人件費三、一四二、四九七円、利子割引料三五、七四二円及び地代家賃三〇、〇〇〇円の合計額である。

(1) 右の外注費・人件費は、原告の右収入金額に前記外注費・人件費率三五・二九%を乗じて得た額から、前記青色事業専従者平均給与額三三七、六六八円に二を乗じて得た額を減じて算出した額である。

(2) 右の利子割引料は、原告が光信用金庫足立支店に支払った二九、二五〇円、同綾瀬支店に支払った五、〇二七円及び足立信用金庫本店に支払った一、四六五円の合計額である。

(3) 右の地代家賃は、原告が加藤平三に支払った家賃六〇、〇〇〇円に、その家屋の事業供用割合(総面積に占める事業供用面積の割合。以下同じ。)五〇%を乗じて算出した額である。

(六) 右の事業専従者控除は、原告の長男に係るものである(なお、原告の妻については、事業専従者控除よりも有利な配偶者控除の対象としたこと前述のとおりであり、この点は昭和四五年分及び昭和四六年分についても同じである。)

4  昭和四五年分事業所得金額は、次の表のとおり、収入金額から収入原価、一般経費、特別経費及び事業専従者控除を控除した二、六七一、九〇六円と算出される。

<省略>

(二) 右の収入金額は、被告が前記反面調査により把握し得た原告の得意先に対する売上金の合計であり、その内訳は、別表五の被告主張記載のとおりである。

(三) 右の収入原価は、原告の右収入金額に前記収入原価率一五・九九%を乗じて算出した額である。

(四) 右の一般経費は、原告の右収入金額に前記一般経費率一九・三八%を乗じて算出した額である。

(五) 右の特別経費は、外注費・人件費二、九五六、三二五円、利子割引料一二、八七五円及び地代家賃三四、八〇〇円の合計額である。

(1) 右の外注費・人件費は、原告の右収入金額に前記外注費・人件費率四三・五〇%を乗じて得た額から、前記青色事業専従者平均給与額四八二、四三六円に二を乗じて得た額を減じて算出した額である。

(2) 右の利子割引料は、原告が光信用金庫綾瀬支店に支払った四、九一七円及び足立信用金庫本店に支払った七、九五八円の合計額である。

(3) 右の地代家賃は、原告が加藤平三に支払った家賃六九、六〇〇円に、その家屋の事業供用割合五〇%を乗じて算出した額である。

(六) 右の事業専従者控除は、原告の長男に係るものである。

5  昭和四六年分事業所得金額の算出根拠

(一) 原告の昭和四六年分事業所得金額は、次の表のとおり、収入金額から収入原価、一般経費、特別経費及び事業専従者控除を控除した一、七八一、五八九円と算出される。

<省略>

(二) 右の収入金額は、被告が前記反面調査により把握し得た原告の得意先に対する売上金の合計であり、その内訳は、別表六の被告主張欄記載のとおりである。

(三) 右の収入原価は、原告の右収入金額に前記収入原価率一〇・六四%を乗じて算出した額である。

(四) 右の一般経費は、原告の右収入金額に前記一般経費率二五・一二%を乗じて算出した額である。

(五) 右の特別経費は、外注費・人件費五五七、一一一円、利子割引料四四、八二一円及び地代家賃三八、四〇〇円の合計額である。

(1) 右の外注費・人件費は、原告の右収入金額に前記外注費・人件費率三八・五一%を乗じて得た額から、前記青色事業専従者平均給与額四九六、八三六円に二を乗じて得た額を減じて算出した額である。

(2) 右の利子割引料は、原告が光信用金庫足立支店に支払った四、一〇五円及び同綾瀬支店に支払った四〇、七一六円の合計額である。

(3) 右の地代家賃は、原告が加藤平三に支払った家賃七六、八〇〇円に、その家屋の事業供用割合五〇%を乗じて算出した額である。

(六) 右の事業専従者控除は、原告の長男に係るものである。

6  本件処分の適法性

本件更正による総所得金額は、本件各係争年分とも、右事業所得金額の範囲内であるから、本件更正は適法である。

また、昭和四四年分の過少申告加算税二三、五〇〇円は、本件更正に基づき納付すべき所得税額四七〇、〇〇〇円(国税通則法一一八条三項の規定により一、〇〇〇円未満の端数切捨。)に一〇〇分の五を乗じた額であり、同じく昭和四五年分の過少申告加算税一二、一〇〇円は、本件更正に基づき納付すべき所得税額二四二、〇〇〇円(同じく一、〇〇〇円未満の端数切捨。)に一〇〇分の五を乗じた額であり、右加算税の賦課決定は、国税通則法六五条一項の規定に従った適法なものである。

四  被告の主張に対する原告の認否

1  被告の主張1のうち、被告所部係官が原告宅を訪問して原告と面接し、訪問の趣旨を述べ、原告の事業概況、取引先、取引銀行等について質問し、その推計に係る所得金額の説明を行ったこと、原告が同係官に対し、帳簿は記帳していないが原始記録は保存していると述べ、調査の具体的理由の説明や被告側資料の開示を求め、異議申立て後の審理の際に調査の違法性を主張したことは認めるが、被告所部係官が調査理由を説明したこと、原告が所得金額の正否などこの際問題ではないと述べたことは否認する。被告所部係官は、原告が調査の具体的理由を説明してくれれば調査に応じるといっているにもかかわらず、申告が正しいのかどうかを確認するために調査すると述べるのみで、調査の具体的理由を説明せず、また資料についてもどの部分がなぜ必要かを答えなかったため、原告は、同係官の質問に答えず、資料を提示しなかっただけであり、調査が適法であり、推計の必要性が存するとの被告の主張は争う。なお、原告は、昭和四三年三月一五日被告主張の土地を北斗開発株式会社から七三〇、〇〇〇円で購入する旨の売買契約を締結し、昭和四三年及び昭和四四年の二年間で代金を完済したところ、被告は右購入資金の出所が不明であったことが本件調査理由の一つであったと主張するが、被告が本件調査の際この問題に触れたことは一度もなく、右はためにする理由にすぎない。

2  被告の主張2は争う。

3  被告の主張3ないし5に対する認否は次のとおりである。

(一) 各(一)の事業所得金額は争う。

(二) 各(二)の収入金額に対する認否は、別表四ないし六の原告認否欄記載のとおりである。

(三) 各(三)の収入原価は争う。

(四) 各(四)の一般経費は争う。

(五) 各(五)の特別経費は争う。(1)の外注費・人件費は争う。(2)の利子割引料は認める。(3)のうち、原告が支払った家賃の額は認めるが、事業供用割合は争う。

(六) 各(六)の事業専従者控除は認める。

4  被告の主張6は争う。

第三証拠

一  原告

1  甲第一号証、第二号証、第三号証の一ないし一一、第四号証の一ないし一三、第五号証の一ないし一〇、第六号証の一ないし七、第七号証の一ないし五、第八号証の一ないし八、第九号証の一ないし三、第一〇号証の一ないし七、第一一号証の一ないし五、第一二号証の一及び二、第一三号証、第一四号証、第一五号証の一、二並びに三の一及び二、第一六号証の一及び二、第一七号証の一ないし四、第一八号証の一及び二、第一九号証の一及び二、第二〇号証の一、二並びに三の一及び二、第二一号証の一及び二、第二二号証の一及び二、第二三号証、第二四号証の一ないし一九、第二五号証の一ないし五、第二六号証の一ないし五、第二七号証の一ないし九、第二八号証の一ないし八、第二九号証、第三〇号証の一ないし一〇、第三一号証の一の一及び二並びに二の一及び二、第三二号証の一ないし三、第三三号証、第三四号証の一及び二、第三五号証の一ないし六、第三六号証、第三七号証、第三八号証の一ないし一五、第三九号証の一ないし五、第四〇号証の一ないし七、第四一号証の一ないし五、第四二号証の一ないし三、第四三号証の一ないし五、第四四号証、第四五号証の一ないし六、第四六号証ないし第四八号証、第四九号証の一ないし六、第五〇号証の一ないし八、第五一号証、第五二号証、第五三号証の一及び二、第五四号証、第五五号証、第五六号証の一及び二、並びに第五七号証ないし第六三号証

2  証人関豊吉の証言並びに原告本人尋問(第一回及び第二回)の結果

3  乙第四号証、第五号証の一ないし三、第一九号証ないし第二四号証、第二六号証、第二八号証、第二九号証及び第三一号証の成立は不知。乙第六号証及び第七号証の成立は税務署作成部分のみ認め、その余は不知。乙第一〇号証の原本の存在及び成立は不知。乙第一一号証及び第一三号証の原本の存在及び成立は認める。その余の乙号各証の成立は認める。

二  被告

1  乙第一号証ないし第四号証、第五号証の一ないし三、第六号証、第七号証、第八号証の一及び二、第九号証ないし第一五号証、第一六号証の一ないし九、並びに第一七号証ないし第三三号証

2  証人宮地夏雄、同中橋健次郎、同海老沢洋、同荒牧清治及び同吉岡光憲の各証言

3  甲第三号証の一ないし一一が原告宅及びその付近の写真であることは認めるが、その撮影年月日及び撮影者は不知。甲第六三号証の原本の存在及び成立は認める。その余の甲号各証の成立は不知。

理由

一  本件課税経過

原告が肩書地において機械部品の加工業を営む白色申告者で、その昭和四四年分、昭和四五年分及び昭和四六年分の各所得税の課税経過が別表一ないし三のとおりであることについては、当事者間に争いがない。

二  調査の適法性及び推計の必要性

1  証人宮地夏雄の証言及び成立に争いのない乙第一号証ないし第三号証によると、被告は、原告の本件各係争年分の所得税確定申告書に専従者控除額及び所得金額のみが記載され、収入金額及び必要経費が記載されていなかったこと、その所得金額も同業者の申告額に比して低いと認められること、及び原告が昭和四四年に有権移転登記を受けた茨城県猿島郡岩井町所在の土地の取得資金の出所が明らかでなかったことから、右所得税の調査をする必要があると判断し、被告所部係官に調査を命じたことが認められ、この認定に反する証拠はない。

2  被告所部係官が、昭和四七年七月二〇日から同年一〇月六日までの間に四回原告宅を訪問し、原告に対し本件各係争年分の所得税の調査を行いたい旨を述べ、原告の事業概況、取引先、取引銀行等について質問したこと、原告が、「帳簿は記帳していないが、原始記録は保存している。」と述べ、調査の具体的理由の説明や被告側資料の開示を求め、被告所部係官の質問には結局答えず、原始記録も提示しなかったことについては、当事者間に争いがない。証人宮地夏雄の証言によると、被告所部係官は、右臨店調査の際原告に対し、「原告の確定申告書には事業専従者控除額と所得金額しか記載されておらず、その申告所得金額も、資料からみても、また同業者の申告状況からみても過少と認められるので、申告の適否を調査するために来た。」と説明したが、原告は、「資料があるなら開示せよ。調査理由を具体的に説明しなければ、調査に応じることはできない。」等と述べるのみで、調査に応じる気配を示さなかったため、被告所部係官は、原告の取引先及び取引銀行についていわゆる反面調査を行ったことが認められ、証人関豊吉の証言及び原告本人尋問(第一回)の結果のうちこの認定に反する部分はたやすく措信できない。

3  そして、被告所部係官が、昭和四八年三月一日及び同月一二日の二回にわたり原告宅を訪問し、原告に対し、右反面調査の結果認定した収入金額と、その収入金額から推計した所得金額を伝えたことについては、当事者間に争いがなく、証人宮地夏雄の証言によると、被告所部係官は、右所得金額の説明の際、原告において右金額に納得がいけば修正申告をするよう説得したが、原告は、右反面調査に抗議するのみで、話合いに応じようとしなかったため、被告は、右調査結果に基づき本件処分を行ったことが認められ、この認定に反する証拠はない。

4  その後、原告が、本件処分を不服として異議申立てを行い、被告所部係官が、その審理のため昭和四八年五月一九日から同年七月一七日までの間に四回原告宅を訪問し、原告に対し異議申立てに係る審理のため赴いた旨を伝え、原告の所得金額の計算過程を明らかにするよう求めたが、原告において結局のところこれに応じなかったことについては、当事者間に争いがない。

5  原告は、以上の被告の調査について、臨店調査に関する事前通知を欠き、調査の具体的理由ないし必要性を全く開示せず、原告の同意なく反面調査を行った違法が存在すると主張する。しかしながら、調査実施の日時場所の事前通知、調査の具体的理由ないし必要性の告知、反面調査に対する納税者の同意は、税務調査における質問検査権行使の要件とされているわけではないから、原告の右主張は失当である。また、原告は、昭和四七年七月二〇日、被告所部係官二名が事前連絡もなく原告宅を訪れ、原告が急ぎの仕事中であるから後日にしてほしいと申し出たにもかかわらず、原告にまつわりついて執ように質問し、調査に応じるよう迫ったと主張し、証人関豊吉は、原告が右主張のような趣旨のことを述べていた旨証言しているが、原告本人ですら、その第一回尋問において、右係官は原告の要請に応じ三、四〇分で帰っていったと供述しているものであり、右係官の臨店調査が妥当性を欠くものとは認め難い。更に、原告は、被告所部係官が頭ごなしに調査に応じよと強要し、権力的、脅迫的な態度に終始したと主張するが、この主張にそう証人関豊吉の証言及び原告本人尋問(第一回)の結果は、証人宮地夏雄の証言と対比してたやすく措信できない。その他、被告の調査が社会通念上相当な限度を超えるものであったことをうかがわせる証拠はなく、結局、1ないし4で述べた被告の調査は、法律で認められた範囲内の適法な調査というべきである。

そして、右調査の経過に照らせば、原告から何らの協力も得られず、その所得金額の実額を把握することが不可能な状況にあったことは明らかであるから、被告が原告の本件各係争年分の所得金額を推計により認定したことには違法はないものということができる。

三  推計の合理性

1  証人中橋健次郎の証言並びに同証言により成立の認められる乙第四号証及び乙第五号証の一ないし三によると、東京国税局長は被告に対し、昭和四四年、昭和四五年及び昭和四六年の各年において被告の管轄区域内で機械部品加工業を営んでいた個人事業者のうち、青色申告書を提出し、かつ、その収入金額が昭和四四年分及び昭和四五年分については五、〇〇〇、〇〇〇円から二〇、〇〇〇、〇〇〇円までのもの、昭和四六年分については二、〇〇〇、〇〇〇円から九、〇〇〇、〇〇〇円までのもので、次の(一)ないし(五)のいずれにも該当しないもの全員の収入金額、収入原価、一般経費、外注費及び人件費(青色事業専従者給与を含む。)について報告するよう通達し、被告は右通達に基づき昭和四四年分五名、昭和四五年分七名及び昭和四六年分九名の同業者を抽出し、その青色申告決算書に基づき右収入金額等を調査したうえ、別表七ないし九の各調査結果の項記載のとおり報告したことが認められ、この認定に反する証拠はない。

(一)  取引先から原材料のすべてを支給されるなど、収入原価がないこと。

(二)  外注費及び人件費がないこと。

(三)  年間を通じて事業を継続していないこと又は災害等により経営状態が異常になったこと。

(四)  他の事業を兼業していること。

(五)  更正処分を受け、その不服申立期間及び出訴期間が経過していないこと。又は不服申立中若しくは訴訟係属中であること。

右調査結果により、収入金額に対する収入原価、一般経費及び外注費・人件費の平均比率を計算すると、別表七ないし九のとおり、昭和四四年分は収入原価率が一七・七五%、一般経費率が二〇・二四%、外注費・人件費率が三五・二九%、昭和四五年分は収入原価率が一五・九九%、一般経費率が一九・三八%、外注費・人件費率が四三・五〇%、昭和四六年分は収入原価率が一〇・六四%、一般経費率が二五・一二%、外注費・人件費率が三八・五一%となる。また、青色事業専従者の一人当たり平均年間給与額は、昭和四四年分が三三七、六六八円、昭和四五年分が四八二、四三六円、昭和四六年分が四九六、八三六円となる。

2  本件において、被告は前記反面調査により判明した原告の収入金額に、右収入原価率を乗じて原告の収入原価を推計し、同じく右一般経費率を乗じて原告の一般経費を推計し、また、外注費・人件費については、原告の収入金額に右外注費・人件費率を乗じて得た額から、右青色事業専従者一人当たり年間平均給与額に二(原告の事業専従者である原告の妻及び長男に対応する数)を乗じて得た額を減じて算出しているので、右のような推計の合理性について検討する。

(一)  被告が推計の資料として抽出すべきものとした同業者は、原告と同じく被告の管轄区域内において機械部品加工業を営む個人事業者であり、かつ、帳簿書類により取引を正確に把握できる青色申告者であって、取引先から原材料のすべてを支給されているなど特殊事情を有する者は除外されている。また、後記のとおり、原告の収入金額については、昭和四四年分一〇、四四五、五八八円、昭和四五年分八、八〇八、六五〇円、昭和四六年分三、八七四、九六二円の限度において原告もこれを認めているが、被告が抽出の対象とした同業者は、昭和四四年分及び昭和四五年分が収入金額五、〇〇〇、〇〇〇円から二〇、〇〇〇、〇〇〇円までの者、昭和四六年分が収入金額二、〇〇〇、〇〇〇円から九、〇〇〇、〇〇〇円までの者であるから、原告の右収入金額のほぼ半分から二倍までの者ということができる。このように、被告が抽出の基準とした同業者は、業種、事業場所、個人営業、収入金額の点において原告と業態の類似性を有し、しかもその申告の正確性について裏付けを有する青色申告者であるから、被告の抽出基準には合理性が存する。そして、被告は右抽出基準に該当する者全員を抽出したのであるから、その抽出には恣意の介在する余地がない。したがって、右同業者の平均の収入原価率、一般経費率、外注費・人件費率については一応の正確性と普遍性とが担保され、これによる推計には特段の事情のない限り合理性が存するというべきである。ただし、昭和四六年分については、抽出同業者のうち、「ほ」の収入原価及び収入原価率が異常に少額、低率であり、抽出基準で除外すべきものとされている「取引先から原材料のすべてを支給されるなど収入原価がない」業者に準ずると認められるので、同年分の同業者率の算定に当たっては同人を除外するのが相当である。

(二)  原告は、被告の抽出した同業者の住所氏名、事業所の広さ、設備、保有機械の種類台数、外注依存度、雇人数、加工部品の種類等が明らかでなく、したがって原告と右同業者との業態、規模の類似性が明らかでないから、このような標本による推計には合理性がないと主張する。確かに、原告が指摘するような個別具体的な類似性は必ずしも明らかになっていないが、右指摘のような点のすべてにわたり原告と類似性を有する同業者を求めることは、極めて困難であり、求め得ても極く限られた数となり、これを基礎とする推計は、かえって普遍性を欠くものになると考えられる。本件で推計の基礎とされる同業者は、昭和四四年分五名、昭和四五年分七名、昭和四六年分八名(被告抽出の九名から前記「ほ」を除く。)であり、その平均値は、個々の業者の個別具体的事情を捨象して客観性、普遍性を示すものといえるので、原告と右同業者との間の個別的具体的事情のすべてにつき類似性が明らかになっていなくても、収入原価率等につき右同業者の平均値を採用することは許されるものと解すべきである。

右同業者の収入原価率、一般経費率、外注費・人件費率をみると、別表七ないし九のとおり、前記「ほ」を除いても同業者間でかなりの較差のあることを否定し得ないが、個人経営の小規模な機械部品加工業のごとき事業においては、同程度の業者間でも各自の経費構成に相当の違いがあることは一般的であって、経費科目別の構成比率に較差のあることが直ちに何らかの特殊事情の存在を示すものとは考えられないので、本件の収入原価率等につき較差がみられるからといって、その平均値をもって推計することを不合理ということはできない。ちなみに、本件では、利子割引料及び地代家賃を別にすれば、右の収入原価、一般経費、外注費・人件費の三科目の合計が必要経費となり、右三科目の率の合計が必要経費率となる関係上、各科目ごとにその平均値によって経費を推計する方法は結果的に右全体としての必要経費率の平均値を使用したのと同一に帰するから、右必要経費率の平均値に普遍性が認められるか否かを検討してみると、被告抽出の同業者(前記「ほ」を除く。)の必要経費率の平均値は、別表七ないし九のとおり、昭和四四年分が七三・二八%、昭和四五年分が七八・八七%、昭和四六年分が七四・一四%であるところ、右各同業者の必要経費率は、昭和四四年分及び昭和四五年分については、右平均値の上下一五%以内の範囲に収まっており、昭和四六年分についても、前記「ほ」を除く八業者のうち六業者までが右の範囲に収まっている。昭和四六年分においては、右範囲に収まらない同業者が二人存在するが、右平均値を上回るものが一人、下回るものが一人で、右平均値からの偏差値が互いに相殺される形になっている。したがって、右同業者の必要経費率にはさほどの較差が認められず、多少の較差があるにしても、それは平均値に包摂されるものであるから、右必要経費の平均値は所得推計の基礎とするに足りる客観性、普遍性を有するものといわなければならない。そうだとすれば、右平均値を直接使用した場合と同一の結果に帰する被告の推計方法をもって合理性を欠くとすべきいわれはなく、原告の主張は失当である。

次に、原告は、外注費及び人件費は本来同業者率によって推計すべきものでないうえ、両者を一括合計してその収入金額に対する比率を求め、これを原告の収入金額に乗じて得た額から青色事業専従者二人分の平均給与額を減じ、原告の外注費・人件費とする計算方法には合理性がないと主張する。しかし、外注費や人件費であっても、他により合理的な推計方法が認められない以上、類似同業者の平均値によって推計するほかなく、その算出に当たり両者を一括しても各別に計算しても結果は変わらない。また、原告が白色申告者であるのに対し、被告抽出の同業者はすべて事業専従者給与を必要経費に算入できる特典を有した青色申告者であるため、原告の事業専従者の二人(原告の妻及び長男)に対応する人数の青色事業専従者の平均給与を減じたまでで、原告の事業専従者二人については別途に事業専従者控除、配偶者控除の対象としているのであるから、右被告の計算方法に不合理はない。

更に、原告は、その作業所の立地条件や備付設備が同業者より著しく劣悪で、外注に多くを頼らざるを得なかったから、同業者の外注費・人件費により推計することは誤りであると主張する。しかし、原告本人尋問(第一回)の結果とこれにより原告主張のとおりの写真であると認められる甲第三号証の一ないし一一によると、原告の居宅兼作業所は表通りから一〇〇メートルほど入った、小型自動車がようやく通れる細い路地の奥にあり、本件各係争年当時の備付設備としては旋盤、ボール盤、ノコ盤程度で、フライス盤やスロッチング盤などはなく、設備や納期の関係から得意先より受けた注文を外注に出すことも少なくなかったことが認められるものの、原告のような小規模機械部品加工業者の場合に作業所の立地条件が業績にさほど影響するものとは考えられないし、また、設備が十分でないため外注を利用するという点も、小規模同業者であれば多かれ少なかれあり得ることであることは、右原告本人尋問の結果からうかがわれるので、右同業者の平均値を適用するのを不合理ならしめるほどの特殊事情ということはできない。

四  外注費及び人件費の実額

1  原告は、原告の外注費は別表一〇に掲げた外注先に対する各支払金の合計であり、その額は昭和四四年分が三、五五一、二三八円、昭和四五年分が二、一九七、六〇六円、昭和四六年分が八六五、二三三円であるとし、その証拠として甲第四号証ないし第五五号証を提出している。

そこで、原告主張の右外注費が真実のものであるか否かを検討する。

(一)  原告は、別表一〇順号5の増田製作所に対し昭和四四年分の外注費として八一五、八二八円を支払ったと主張し、作成名義人として「千葉県柏市若柴三六六増田製作所増田富夫」のゴム印と「増田」の丸印が押された領収書である甲第八号証の一ないし八を提出し、原告本人は、第一回及び第二回尋問において、右領収書は昭和四五年ころ増田富夫に作成してもらったものであり、その上に押されている「再発行」のゴム印は同人のいる前で原告が押したか又は同人に押してもらったものであると供述している。

しかしながら、成立に争いのない乙第一四号証及び乙第一八号証、証人荒牧清治の証言並びに同証言により成立の認められる乙第一九号証及び乙第二〇号証によると、右住所に居住していた者は増田富夫でなく増田富男であり、同人は昭和四七年二月一六日死亡していること、右領収書の用紙、記名ゴム印及び丸印は同人の使用していたものではないこと、同人の事業関係帳簿書類には同人と原告との間で取引があったことを示す記載がないこと、及び同人の死亡後に開始された原告の本件審査請求手続において原告が東京国税不服審判所に提出した右甲号証と同じ領収書には「再発行」のゴム印が押されていなかったことが認められ、これらの事実を総合すると、右甲号証の領収書は明らかに架空のものであり、右甲号証及び増田製作所との取引に関する原告本人の第一回及び第二回尋問における供述は措信できない。

(二)  原告は、別紙一〇順号12の国華製作所に対し昭和四五年分外注費三四〇、六五一円を支払ったと主張し、その証拠として甲第三〇号証の一ないし一〇を提出しているが、このうち甲第三〇号証の九は金額一九、一五五円の国華製作所作成名義の請求書であるところ、成立に争いのない乙第三二号証によると、右一九、一五五円の中には工具代立替金一、〇七五円が含まれていることが認められる。

(三)  原告は、別表一〇順号13の寺坂製作所に対し昭和四四年分外注費一四四、二六〇円及び昭和四六年分外注費九八、七三〇円を支払ったと主張し、その証拠として甲第一六号証の一及び二並びに甲第四二号証の一ないし三を提出している。

右甲号証は作成名義人として「東京都葛飾区新小岩町四丁目一八寺坂製作所電話(六五二)九三六五(呼)」とのゴム印の押された領収書であるが、証人荒牧清治の証言並びに同証言により成立の認められる乙第二一号証及び乙第二二号証によると、昭和四四年ないし昭和四六年において、右住所には寺坂製作所なるものは存在せず、右電話も東京都葛飾区新小岩四丁目七番二三号高橋忠志の電話で、同人は右電話を寺坂製作所なるものに使用させたことはないことが認められ、これらの事実からすれば右領収書は架空のものと認められる。そして、右甲号証及び寺坂製作所との取引に関する原告本人の第一回及び第二回尋問における供述は、あいまいかつ不自然で措信できない。

(四)  原告は、別表一〇順号14の山川製作所に対し昭和四四年分外注費七〇五、九六〇円を支払ったと主張し、その証拠として甲第一七号証の一ないし四を提出している。

右甲号証は、作成名義人として「荒川区西尾久六-二八-五山川製作所」と記載された昭和四四年八月二六日、同年一〇月二三日、同年一一月二五日及び同年一二月二四日付けの領収書であるが、前掲乙第一四号証、成立に争いのない乙第三〇号証、証人荒牧清治の証言、同証言により成立の認められる乙第二六号証及び乙第二八号証、並びに証人吉岡光憲の証言により成立の認められる乙第三一号証によると、右住所に居住していた山川長次郎は原告と取引がなく、右領収書も作成していないこと、右領収書の用紙はその作成日付のころいまだ市販されていなかったこと、及び右領収書には「再発行」の文字が記載されているが、原告がこれを本件審査請求手続において東京国税不服審判所に提出したときには右文字は記載されていなかったことが認められ、これらの事実を総合すれば、右甲号証の領収書は明らかに架空のものといわざるを得ない。そして、右甲号証及び山川製作所との取引に関する原告本人の第一回及び第二回尋問における供述は、一貫性がなく、あいまいかつ不自然で到底措信できない。

(五)  原告は、別表一〇順号18の吉野製作所に対し昭和四四年分外注費一二四、九〇〇円及び昭和四六年分外注費一七八、二六〇円を支払ったと主張し、その証拠として甲第二一号証の一及び二並びに甲第四五号証の一ないし六を提出している。

右甲号証は、作成名義人として「川口市末広町二丁目一一-五吉野製作所TEL川口(〇四八二)二二-七一四八」とのゴム印が押された領収書であるが、このうち甲第四五号証の一ないし四には「寺坂製作所」との角印が押されているうえに、成立に争いのない乙第二五号証、証人荒牧清治の証言並びに同証言により成立の認められる乙第二三号証及び乙第二四号証、並びに前掲乙第二八号証によると、右「末広」の町名は甲第二一号証の一の作成日付である昭和四四年一〇月二五日より後である同年一一月一日実施の住居表示変更によりそれまでの町名の「一二月田町」が変ったものであること、右住所には吉野製作所なるものは存在していなかったこと、及び右電話も川口市末広一丁目二二番一七号本橋武が昭和四五年四月二一日に設置したものであることが認められ、これらの事実を総合すると、右甲号証の領収書は明らかに架空のものと認められる。そして、右甲号証及び吉野製作所との取引に関する原告本人の第一回及び第二回尋問における供述も、あいまいかつ不自然で到底措信できない。

(六)  原告は別表一〇順号22の坂田製作所に対し昭和四四年分外注費九八、一六〇円を支払ったと主張し、その証拠として甲第二三号証を提出しているが、同甲号証は坂田製作所作成名義の金額九八、一六〇円の領収書であるところ、「仕入」という文字の記入があり、右金額がはたして外注費であるのか疑問である。

(七)  以上のように、原告が外注費支払の証拠として提出した甲号証の中には、明らかに架空のものと認められる領収書や、本件係争年分の外注費の支払を証するものか否か積極的に疑問な領収書及び請求書が含まれているうえに、右に特に摘示した以外の甲号証も、そのほとんどがいかなる性質の金額かについて表示のない領収書である。そして、これらに関する原告本人の供述は、前記のとおり明らかに事実に反すると認められる点が少なからずある以上、全体として信用し難いものといわざるを得ない。したがって、右甲号証及び原告本人の供述によっては、本件係争年分の外注費の実額を把握することはできず、他にその実額を認定することができる証拠はないから、これを推計により算出することはやむを得ないものというべきである。

2  また、原告は、原告の人件費は昭和四四年が一、四七三、五二〇円(岡村剛に対する支給分一、二八九、三四八円及び椎名恵に対する支給分一八四、一七二円の合計)、昭和四五年分が二、〇〇二、三一二円(岡村剛に対する支給分一、二八二、三一二円及び竹田耕一に対する支給分七二〇、〇〇〇円の合計)、昭和四六年分が三六〇、〇〇〇円(竹田耕一に対する支給分)であるとし、その証拠として甲第五八号証ないし第六〇号証を提出している。

(一)  成立に争いのない乙第一六号証の一及び二、前掲乙第二八号証及び証人荒牧清治の証言により成立の認められる乙第二九号証によると、原告は、本件審査請求手続において、東京国税不服審判所国税審判官に対し、昭和四四年分及び昭和四五年分の賃金一覧表を提出したが、同一覧表について、カレンダーや広告紙等の余白に書き付けておいた雇人への賃金を集計したものであると説明しながら、賃金に関する原始記録や帳簿は提示しなかったことが認められる。

(二)  甲第五八号証は、椎名恵作成名義の受領証明書であり、同人が原告から昭和四四年の二月から四月まで合計一八四、一七二円の賃金の支給を受けたことを内容とするもので、右原告作成の賃金一覧表と一致するものであるが、原告本人は、第一回尋問においては、同甲号証は原告の雇人であった椎名恵が同人のノートに基づいて作成したものである旨供述し、第二回尋問においては、椎名恵が細かい数字は分からないといって原告宅へ確かめに来たうえ同甲号証を作成したものである旨供述を変更した。そして、成立に争いのない乙第一六号証の九及び前掲乙第二九号証によると、椎名恵は、東京国税不服審判所国税審判官に対し、数額は原告から聞いたものである旨の断り書を付した右甲号証と同内容の回答書を寄せ、また、同審判所国税審査官に対し、同人が原告に雇われていたのは東京オリンピックの年(昭和三九年)の前後二、三年間であった旨供述していることが認められる。

(三)  甲第五九号証は、岡村剛作成名義の給料受取証明書であり、同人が原告から昭和四四年一月から昭和四五年九月までに合計二、五七一、六六〇円の賃金の支給を受けたことを内容とするもので、右原告作成の賃金一覧表と一致するものである。そして、成立に争いのない乙第一六号証の六及び乙第三三号証並びに前掲乙第二九号証によると、岡村剛に対する東京国税不服審判所国税審判官からの書面による問合せに対し、同人名義で右甲号証と同内容の回答書が寄せられているが、この回答書は、同人の印章が押捺されていないうえ、同人の住所地とは離れた原告の住所地付近で投函されていることが認められる。また、成立に争いのない乙第一六号証の七及び前掲乙第二九号証によると、昭和四五年五月ころから原告に雇われていたという竹田耕一は、同審判所国税審査官に対し、原告方には竹田耕一のほかに雇人がいなかった旨供述していることが認められる。

(四)  甲第六〇号証は、竹田耕一作成名義の給料受取証明書であり、同人が原告から昭和四五年五月から同年一二月までに七二〇、〇〇〇円、昭和四六年一月から同年四月までに三六〇、〇〇〇円の賃金の支給を受けたことを内容とするもので、昭和四五年分については右原告作成の賃金一覧表と一致するものである。そして、成立に争いのない乙第一六号証の八並びに前掲乙第一六号証の七及び乙第二九号証によると、竹田耕一は、東京国税不服審判所審判官に対し、原告から昭和四五年五月から同年一二月まで毎月九〇、〇〇〇円、合計七二〇、〇〇〇円の賃金の支給を受けた旨の回答書を寄せたが、同審判所国税審査官に対しては、賃金が毎月九〇、〇〇〇円と決まっていたものではなく、同人も毎日決まって原告方で勤務していたものではないことを供述していることが認められる。

(五)  以上(一)ないし(四)に認定した事実を総合すると、椎名恵及び岡村剛が昭和四四年ないし昭和四五年に原告に雇用されていたか否かについて疑問があるうえに、甲第五八号証ないし第六〇号証は、原告作成の賃金一覧表を基にして、これに合わせて作成されたものであり、同一覧表についてはその基礎となるべき原始記録、帳簿等の提出がなく、同一覧表は単に原告の主張を記載したにすぎないものといわざるる得ないから、結局のところ、甲第五八号証ないし第六〇号証は、原告が現実に支払った賃金の額を証明するについての証拠価値を有しないものと判断せざるを得ない。原告本人の第一回及び第二回尋問における供述のうちこの認定に反する部分は措信できない。したがって、原告の人件費の実額を把握することはできず、これを推計により算出することはやむを得ないものというべきである。

五  昭和四四年分事業所得金額

1  収入金額

原告の昭和四四年分の収入金額について、被告は別表四の被告主張欄に記載した順号1ないし16の得意先に対する売上金の合計一〇、五三五、〇八八円であると主張するところ、このうち順号15の全額三九、五〇〇円及び順号16の内金五〇、〇〇〇円を除く一〇、四四五、五八八円については、当事者間に争いがない。

2  収入原価

右争いのない収入金額一〇、四四五、五八八円に、前記三の1に記載した収入原価率一七・七五%を乗じ、原告の収入原価を推計すると、一、八五四、〇九二円となる。

3  一般経費

右争いのない収入金額一〇、四四五、五八八円に、前記三の1に記載した一般経費率二〇・二四%を乗じ、原告の一般経費を推計すると、二、一一四、一八七円となる。

4  特別経費

(一)  右争いのない収入金額一〇、四四五、五八八円に、前記三の1に記載した外注費・人件費率三五・二九%を乗じたうえ、前記三の1に記載した青色事業専従者平均給与額三三七、六六八円に二(原告の事業専従者である原告の妻及び長男に対応する数。昭和四五年分及び昭和四六年分についても同じ。)を乗じた額を控除して、原告の外注費及び人件費を推計すると、三、〇一〇、九一二円となる。

(二)  原告の利子割引料が三五、七四二円であることについては、当事者間に争いがない。

(三)  原告が居宅兼事業所として使用している家屋の家賃として六〇、〇〇〇円を支払ったことについては、当事者間に争いがなく、原告本人尋問(第一回)の結果によれば右家屋の事業供用割合は五〇%と認めるのが相当であるから、特別経費として計上すべき地代家賃は、右六〇、〇〇〇円に五〇%を乗じた三〇、〇〇〇円と認めるのが相当である。

(四)  以上(一)ないし(三)の金額を合計すると、原告の特別経費は三、〇七六、六五四円となる。

5  事業専従者控除

原告の事業専従者控除が一五〇、〇〇〇円であることについては、当事者間に争いがない。

6  事業所得金額

以上の収入金額一〇、四四五、五八八円から、収入原価一、八五四、〇九二円、一般経費二、一一四、一八七円、特別経費三、〇七六、六五四円及び事業専従者控除一五〇、〇〇〇円を控除すると、三、二五〇、六五五円となるから、原告の昭和四四年分の事業所得金額は少なくとも三、二五〇、六五五円ということができる。本件更正による昭和四四年分の総所得金額(異議決定及び審査裁決により一部取り消された後のもの)は三、〇六二、四六一円で右金額の範囲内のものであるから、本件更正には所得の過大認定の違法はなく、したがって本件更正に伴う過少申告加算税賦課決定もまた適法というべきである。

六  昭和四五年分事業所得金額

1  収入金額

原告の昭和四五年分の収入金額について、被告は別表五の被告主張欄に記載した順号1ないし11の得意先に対する売上金の合計九、〇一四、二四五円であると主張するところ、このうち順号3の内金一七六、四七五円及び順号11の内金二九、一二〇円を除く八、八〇八、六五〇円については、当事者間に争いがない。

2  収入原価

右争いのない収入金額八、八〇八、六五〇円に、前記三の1に記載した収入原価率一五・九九%を乗じ、原告の収入原価を推計すると、一、四〇八、五〇三円となる。

3  一般経費

右争いのない収入金額八、八〇八、六五〇円に、前記三の1に記載した一般経費率一九・三八%を乗じ、原告の一般経費を推計すると、一、七〇七、一一六円となる。

4  特別経費

(一)  右争いのない収入金額八、八〇八、六五〇円に、前記三の1に記載した外注費・人件費率四三・五〇%を乗じたうえ、前記三の1に記載した青色事業専従者平均給与額四八二、四三六円に二を乗じた額を控除して、原告の外注費及び人件費を推計すると、二、八六六、八九一円となる。

(二)  原告の利子割引料が一二、八七五円であることについては、当事者間に争いがない。

(三)  原告が居宅兼事業所として使用している家屋の家賃として六九、六〇〇円を支払ったことについては、当事者間に争いがないところ、前記五の4の(三)と同様の理由により、特別経費として計上すべき地代家賃は、右六九、六〇〇円に五〇%を乗じた三四、八〇〇円と認めるのが相当である。

(四)  以上(一)ないし(三)の金額を合計すると、原告の特別経費は二、九一四、五六六円となる。

5  事業専従者控除

原告の事業専従者控除が一五〇、〇〇〇円であることについては、当事者間に争いがない。

6  事業所得金額

以上の収入金額八、八〇八、六五〇円から、収入原価一、四〇八、五〇三円、一般経費一、七〇七、一一六円、特別経費二、九一四円、五六六円及び事業専従者控除一五〇、〇〇〇円を控除すると二、六二八、四六五円となるから、原告の昭和四五年分の事業所得金額は少なくとも二、六二八、四六五円ということができる。本件更正による昭和四五年分の総所得金額(異議決定及び審査裁決により一部取り消された後のもの)は二、五一〇、〇〇八円で右金額の範囲内のものであるから、本件更正には所得の過大認定の違法はなく、したがつて本件更正に伴う過少申告加算税賦課決定もまた適法というべきである。

七  昭和四六年分事業所得金額

1  収入金額

原告の昭和四六年分の収入金額について、被告は別表六の被告主張欄に記載した順号1ないし10の得意先に対する売上金の合計四、〇二六、九六二円であると主張するところ、このうち順号10の全額一五二、〇〇〇円を除く三、八七四、九六二円については、当事者間に争いがない。

2  収入原価

右争いのない収入金額三、八七四、九六二円に、別表九の「ほ」を除いて計算した収入原価率一一・九七%を乗じ原告の収入原価を推計すると、四六三、八三三円となる。

3  一般経費

右争いのない収入金額三、八七四、九六二円に、別表九の「ほ」を除いて計算した一般経費率二三・五三%を乗じ、原告の一般経費を推計すると、九一一、七七九円となる。

4  特別経費

(一)  右争いのない収入金額三、八七四、九六二円に、別表九の「ほ」を除いて計算した外注費・人件費率三八・六四%を乗じたうえ、別表九の「ほ」を除いて計算した青色事業専従者平均給与額五〇六、六〇四円に二を乗じた額を控除して、原告の外注費及び人件費を推計すると、四八四、〇七七円となる。

(二)  原告の利子割引料が四四、八二一円であることについては、当事者間に争いがない。

(三)  原告が居宅兼事業所として使用している家屋の家賃として七六、八〇〇円を支払ったことについては、当事者間に争いがないところ、前記五の4(三)と同様の理由により、特別経費として計上すべき地代家賃は、右七六、八〇〇円に五〇%を乗じた三八、四〇〇円と認めるのが相当である。

(四)  以上(一)ないし(三)の金額を合計すると、原告の特別経費は五六七、二九八円となる。

5  事業専従者控除

原告の事業専従者控除が一六五、〇〇〇円であることについては、当事者間に争いがない。

6  事業所得金額

以上の収入金額三、八七四、九六二円から、収入原価四六三、八三三円、一般経費九一一、七七九円、特別経費五六七、二九八円及び事業専従者控除一六五、〇〇〇円を控除すると、一、七六七、〇五二円となるから、原告の昭和四六年分の事業所得金額は少なくとも一、七六七、〇五二円ということができる。そして、原告の主張する短期総合譲渡所得損失金三一二、一四九円を仮に損益通算したとしても、一、四五四、九〇三円となる。本件更正による昭和四六年分の総所得金額(審査裁決により一部取り消された後のもの)は、一、一五四、七七一円で右金額の範囲内のものであるから、本件更正には所得の過大認定の違法はないものというべきである。

八  結語

以上のとおり、本件処分には違法な点はないから、その取消しを求める原告の請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条及び民事訴訟法八九条の規定を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤繁 裁判官 泉徳治 裁判官 菊池洋一)

別表一(昭和四四年分課税経過)

<省略>

別表二(昭和四五年分課税経過)

<省略>

別表三(昭和四六年分課税経過)

<省略>

<省略>

別表四(昭和四四年分収入金額)

<省略>

<省略>

注一 被告主張額との差一〇、三六〇円は、被告が昭和四五年分として計上したものである。

注二 原告は、昭和四二年ころ株式会社川入製作所が服部商事株式会社から借金をした際連帯保証人となり、昭和四三年ころ右連帯保証人として五〇、〇〇〇円を弁済したため、株式会社川入製作所は、原告に対し右五〇、〇〇〇円を返済した。被告主張額には右五〇、〇〇〇円が含まれている。

別表五(昭和四五年分収入金額)

<省略>

注一 株式会社表面加工技術研究所から注文を受けたのは伸洋精機製作所こと服部啓一郎であるか、同人が倒産したため、同人の受けた注文を原告が引き継いだもので、原告の収入になったのは一〇〇、〇〇〇円であり、残りは服部啓一郎が収受している。

注二 被告主張額との差のうち、一〇、三六〇円は昭和四四年一二月三日納品分で昭和四四年分に計上されるべきである。残り一八、七六〇円は、原告が昭和四五年中に伸洋精機製作所こと服部啓一郎へ返金した分である。

別表六 (昭和四六年分収入金額)

<省略>

注 原告は、銀行取引のない坂田実から株式会社小松川製作所振出、額面一五二、〇〇〇円の約束手形の現金化を依頼され、これを光信用金庫足立支店で割り引き、同割引金を坂田実に交付したもので、一五二、〇〇〇円は原告の売上金ではない。

別表七(昭和四四年分同業者平均比率)

<省略>

別表八(昭和四五年分同業者平均比率)

<省略>

別表九(昭和四六年分同業者平均比率)

<省略>

<省略>

別表一〇(外注費)

<省略>

<省略>

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